先日、NEWOLD CAPITAL社が運営するPodcast「経営眼」に出演する機会をいただきました。
収録では、これまで20年以上、人と組織に向き合ってきた経験や、エグゼクティブ・オンボーディングという考え方、事業承継やM&A後の組織づくりについて、さまざまなお話をさせていただきました。
その中で、最後に「新たに経営に参画する方へ、一つだけ伝えるとしたら?」と聞かれ、私はこう答えました。
「焦って課題解決をしないでください」
収録を終えてあらためて振り返ると、この一言には、これまで多くの経営者や組織に向き合う中で感じてきたことが、凝縮されているように思います。
今回は、番組の中では十分にお話ししきれなかった、この言葉の背景について少し書いてみたいと思います。
新しい役割を任されると、人は「変えなければ」と考える
事業承継で新しい経営者に就任する。
M&Aを経て、譲り受けた会社の経営を担う。
外部から経営幹部として新しい組織に加わる。
こうした局面では、多くの場合、その人には何らかの「変革」が期待されています。
業績を伸ばしてほしい。
組織を変えてほしい。
新しい戦略を実行してほしい。
期待されている本人も、それをよく分かっています。
だからこそ、新しい組織に入った瞬間から、
「何が問題なのか」
「何を変えるべきなのか」
「どこに課題があるのか」
を探し始めます。
もちろん、課題を見つけることは必要です。
ただ、ここで一度立ち止まってほしいのです。
課題を探す前に、まず知るべきことがあるからです。
「変えるべきもの」より先に、「変えてはいけないもの」を知る
会社には、数字や組織図だけでは見えないものがあります。
長く大切にされてきた価値観。
社員同士の関係性。
お客様との向き合い方。
意思決定の仕方。
その会社らしい仕事の進め方。
外から見ると非効率に見えるものの中にも、その会社が長く支持されてきた理由が隠れていることがあります。
だから私は、新しい経営者には最初に、
「この会社が、これまで大切にしてきたものは何なのか」
を探してほしいと思っています。
何を変えるかを考える前に、何を残すべきなのかを知る。
この順番は、とても重要です。
新しい経営者にとっては「改善」であっても、これまで会社を支えてきた人たちにとっては、「自分たちが大切にしてきたものを否定された」と感じることがあります。
そこで生まれた小さな違和感が、やがて大きな摩擦になってしまうこともあります。
優れた戦略も、実行されなければ意味がない
私がこのことを最初に痛感したのは、学生時代のスポーツのチームづくりでした。
良かれと思って前に進もうとしたことが、かえって周囲との距離を生んでしまったのです。そのときに学んだのが、チームは一人でつくるものではないということでした。
この原体験については、今回のPodcastでもお話ししています。ご興味があれば、ぜひ番組で聞いていただけたらと思います。
それから20年以上、人と組織に向き合ってきましたが、今も変わらず感じるのは、優れた戦略を描くことと、それを組織が実行できることは別の話だということです。
戦略を実行に移すのは、現場で働く一人ひとりです。だからこそ、その人たちを理解することから始める必要があるのだと思います。
最初の100日は、「答えを出す時間」ではなく「理解する時間」
新しい経営者ほど、「早く成果を出さなくては」と考えます。
その気持ちは、とてもよく分かります。
周囲からの期待もありますし、自分自身も結果を出したい。
だから、すぐに答えを出そうとする。
でも私は、特に最初の100日は、答えを出すことを急がなくてもよいと思っています。
むしろ、
目の前のこの社員は、何を大切にしているのか。他の誰でもない、この人にとっての仕事のご褒美(モチベーションの源泉や、仕事から得たいもの)は何なのか。
この会社では、どのように意思決定が行われてきたのか。
社員は、この会社のどこに誇りを感じているのか。
取引先から見た、この会社の価値は何なのか。
そして、これからも残していくべきものは何なのか。
そうしたことを知る時間が必要です。
もちろん、何もせずに様子を見るという意味ではありません。
変革のために、理解する。
私は、最初の100日をそのための時間だと考えています。
変えてはいけないDNAと、貪欲な進化
事業承継もM&Aも、「これまでを否定して新しいものに置き換えること」ではないと私は思っています。
どの会社にも、長い時間をかけて培われてきた、変えてはいけないDNAがあります。
それは、その会社が選ばれ続けてきた理由であり、社員が誇りを持てる拠りどころでもあります。
ただ、DNAを守ることは、立ち止まることではありません。
むしろ、守るべきものが分かっているからこそ、それ以外のことには貪欲に挑戦できる。
焦って課題を解決することと、貪欲に進化することは、まったく違うのです。
だからこそ、最初に問うべきは「何が間違っているのか」ではなく、
「この組織には、すでにどんな力があるのか」。
そのうえで、何を守り、何を変えていくのかを考える。
それが、私たちがエグゼクティブ・オンボーディングで大切にしていることの一つです。
Podcastの収録の最後に、迷わず口にした、
「焦って課題解決をしないでください」
という言葉。
収録を終えた今も、新しい経営を担う方にまずお伝えしたいことは、やはりこの一言なのだと思います。
変えることを急ぐ前に、まずその会社を知る。
そして、変えてはいけないDNAを見つける。
そこから始めることで、貪欲な進化を支える力は、大きくなるはずです。
Podcast|プロから学ぶ経営論「経営眼」(株式会社NEWOLD CAPITAL)
20年・約3,000名を支援して見えた「失敗の法則」から考える、経営幹部が活躍するための条件|日本企業のためのエグゼクティブオンボーディングのプロが語る経営眼
▼ YouTubeで聴く
https://youtu.be/Po1YaOFvxQM
