私が大切にしていること

「焦って課題解決をしないでください」— 新たに経営を担う人が、最初に見るべきこと —

2026.11.06

先日、NEWOLD CAPITAL社が運営するPodcast「経営眼」に出演する機会をいただきました。

収録では、これまで20年以上、人と組織に向き合ってきた経験や、エグゼクティブ・オンボーディングという考え方、事業承継やM&A後の組織づくりについて、さまざまなお話をさせていただきました。

その中で、最後に「新たに経営に参画する方へ、一つだけ伝えるとしたら?」と聞かれ、私はこう答えました。

「焦って課題解決をしないでください」

収録を終えてあらためて振り返ると、この一言には、これまで多くの経営者や組織に向き合う中で感じてきたことが、凝縮されているように思います。

今回は、番組の中では十分にお話ししきれなかった、この言葉の背景について少し書いてみたいと思います。

新しい役割を任されると、人は「変えなければ」と考える

事業承継で新しい経営者に就任する。
M&Aを経て、譲り受けた会社の経営を担う。
外部から経営幹部として新しい組織に加わる。

こうした局面では、多くの場合、その人には何らかの「変革」が期待されています。

業績を伸ばしてほしい。
組織を変えてほしい。
新しい戦略を実行してほしい。

期待されている本人も、それをよく分かっています。
だからこそ、新しい組織に入った瞬間から、

「何が問題なのか」
「何を変えるべきなのか」
「どこに課題があるのか」

を探し始めます。

もちろん、課題を見つけることは必要です。
ただ、ここで一度立ち止まってほしいのです。

課題を探す前に、まず知るべきことがあるからです。

「変えるべきもの」より先に、「変えてはいけないもの」を知る

会社には、数字や組織図だけでは見えないものがあります。

長く大切にされてきた価値観。
社員同士の関係性。
お客様との向き合い方。
意思決定の仕方。
その会社らしい仕事の進め方。

外から見ると非効率に見えるものの中にも、その会社が長く支持されてきた理由が隠れていることがあります。

だから私は、新しい経営者には最初に、

「この会社が、これまで大切にしてきたものは何なのか」

を探してほしいと思っています。

何を変えるかを考える前に、何を残すべきなのかを知る。
この順番は、とても重要です。

新しい経営者にとっては「改善」であっても、これまで会社を支えてきた人たちにとっては、「自分たちが大切にしてきたものを否定された」と感じることがあります。

そこで生まれた小さな違和感が、やがて大きな摩擦になってしまうこともあります。

優れた戦略も、実行されなければ意味がない

私がこのことを最初に痛感したのは、学生時代のスポーツのチームづくりでした。

良かれと思って前に進もうとしたことが、かえって周囲との距離を生んでしまったのです。そのときに学んだのが、チームは一人でつくるものではないということでした。

この原体験については、今回のPodcastでもお話ししています。ご興味があれば、ぜひ番組で聞いていただけたらと思います。

それから20年以上、人と組織に向き合ってきましたが、今も変わらず感じるのは、優れた戦略を描くことと、それを組織が実行できることは別の話だということです。

戦略を実行に移すのは、現場で働く一人ひとりです。だからこそ、その人たちを理解することから始める必要があるのだと思います。

最初の100日は、「答えを出す時間」ではなく「理解する時間」

新しい経営者ほど、「早く成果を出さなくては」と考えます。

その気持ちは、とてもよく分かります。
周囲からの期待もありますし、自分自身も結果を出したい。
だから、すぐに答えを出そうとする。

でも私は、特に最初の100日は、答えを出すことを急がなくてもよいと思っています。

むしろ、

目の前のこの社員は、何を大切にしているのか。他の誰でもない、この人にとっての仕事のご褒美(モチベーションの源泉や、仕事から得たいもの)は何なのか。

この会社では、どのように意思決定が行われてきたのか。
社員は、この会社のどこに誇りを感じているのか。
取引先から見た、この会社の価値は何なのか。
そして、これからも残していくべきものは何なのか。

そうしたことを知る時間が必要です。
もちろん、何もせずに様子を見るという意味ではありません。

変革のために、理解する。

私は、最初の100日をそのための時間だと考えています。

変えてはいけないDNAと、貪欲な進化

事業承継もM&Aも、「これまでを否定して新しいものに置き換えること」ではないと私は思っています。

どの会社にも、長い時間をかけて培われてきた、変えてはいけないDNAがあります。
それは、その会社が選ばれ続けてきた理由であり、社員が誇りを持てる拠りどころでもあります。

ただ、DNAを守ることは、立ち止まることではありません。
むしろ、守るべきものが分かっているからこそ、それ以外のことには貪欲に挑戦できる。
焦って課題を解決することと、貪欲に進化することは、まったく違うのです。
だからこそ、最初に問うべきは「何が間違っているのか」ではなく、

「この組織には、すでにどんな力があるのか」。

そのうえで、何を守り、何を変えていくのかを考える。
それが、私たちがエグゼクティブ・オンボーディングで大切にしていることの一つです。

Podcastの収録の最後に、迷わず口にした、

「焦って課題解決をしないでください」

という言葉。

収録を終えた今も、新しい経営を担う方にまずお伝えしたいことは、やはりこの一言なのだと思います。

変えることを急ぐ前に、まずその会社を知る。
そして、変えてはいけないDNAを見つける。

そこから始めることで、貪欲な進化を支える力は、大きくなるはずです。

Podcast|プロから学ぶ経営論「経営眼」(株式会社NEWOLD CAPITAL)

20年・約3,000名を支援して見えた「失敗の法則」から考える、経営幹部が活躍するための条件|日本企業のためのエグゼクティブオンボーディングのプロが語る経営眼

▼ YouTubeで聴く
https://youtu.be/Po1YaOFvxQM