この度、エムクラスは、事業承継・M&A・IPOなど、経営の転換期における人と組織を支援する「PRIME SHIFT」の提供を2026年11月5日より開始します。
新しいサービスの発表では、成功事例を語ることが多いかもしれません。
けれど、PRIME SHIFTの原点にあるのは「失敗」です。
そして今、この失敗から得た知見を、一刻も早く届けなければならない。
同じ失敗を、これから挑戦する人たちに繰り返してほしくない。 私たちは、急いでいます。
実績のある人を選んだのに、組織が動かない
2026年9月、私たちは九州大学ビジネス・スクール 碇研究室との共同調査の結果を発表しました。
過去5年間に新たに登用した役員について、就任後2年以内に「解雇・勧告・任期満了(再任されず)」を経験した企業は、内部昇進で50.4%、外部採用で45.7%にのぼりました。※1
およそ2社に1社が、登用した役員の早期の退任を経験しているのです。
この調査の原点は、2013年の冬にかかってきた一本の電話にあります。
私が送り出した社長からの「人生狂いましたよ。紹介した責任を感じてください」という言葉でした。
(ブログ:日本版エグゼクティブオンボーディングの夜明け(https://m-class.co.jp/blog/2026/02/26/1387/)
実績のある人が、なぜ新しい組織で力を発揮できないのか。
あの日から、私はその問いを抱えてきました。
この20年、経営層を含む3,000名余りの転機に伴走してきた中で、何度も同じ場面に立ち会いました。
現場で見てきたことは、一部の企業だけの話なのか。それとも、多くの会社で起きていることなのか。それを確かめるために行ったのが、この調査です。
結果は、私が現場で見てきたことを裏付けるものでした。
私は今、この数字をこれまで以上に重く受け止めています。
売却、承継、そして買収。日本の土台と未来が、同時に正念場を迎える
なぜ今なのか。
それは、これから数年の間に、事業承継やM&Aを通じて、日本中で経営のバトンが次々と渡されていくと、私たちは考えているからです。
しかもそれは、日本経済の土台を支えてきた会社と、これからの日本を担う会社の両方で、同時に起きようとしています。
一つは、日本の土台を支えてきた会社、オーナー企業の売却と事業承継です。
地域の雇用を守り、長い時間をかけて技術を磨き、取引先とのつながりを築いてきた会社が、今、経営者の交代を迎えています。
社長の平均年齢は63.81歳と過去最高になり、70代以上の社長が率いる企業は、約3社に1社にのぼります。多くの企業にとって、次の世代へ経営をどう引き継ぐかが、差し迫った課題になっています。※2
そこに、税制の期限が重なります。
2027年分から、株式の売却益を含む高額所得への課税が強化されます。対象となるオーナーにとっては、2026年中の売却を検討する理由の一つになります。
さらに、事業承継税制の特例措置では、贈与・相続による株式取得の期限が、2027年末に迫っており、期限を前に、承継を急ぐ動きも予想されます。※3
もう一つは、これからの日本を担う成長企業のM&Aです。
東証グロース市場では、2030年から、上場維持基準が「上場5年経過後、時価総額100億円以上」に変わります。※4
この基準を前に、IPOを目指していた企業の中には、上場以外の成長の道として、M&Aによる売却を選ぶ企業も出てくるでしょう。
すでに上場している企業にとっても、基準を見据えた成長戦略として、買収は重要な選択肢になります。一社にとどまらず、複数の企業を続けて買収する動きも、今後さらに増えていくと、私たちは見ています。
売却を急ぐ会社。承継を急ぐ会社。買収を急ぐ会社。
期限や目標に向けて、株式の移転や契約が進んでいく。その一方で、経営の承継の準備は間に合うのでしょうか。
株式は、期限までに移すことができます。
けれど、先代が担ってきた判断も、社員や取引先との信頼関係も、書類と一緒には引き継がれません。
準備が整わないまま、新しい経営者が就任する。買収先に送り出された社長が、周囲との認識をそろえる時間もないまま、成果を求められる。異なる文化を持つ組織を、いくつも同時に束ねようとする。
今年クロージングを迎える企業では、これから新しい経営体制が動き出します。
株式の承継はうまくいったのに、経営の承継でつまずく。そうした会社が、これから数年の間に、日本各地で生まれるのではないか。経営の移行を支援する者として、私たちはそれを見過ごすことができません。
経営の承継でつまずくことは、その一社だけの問題では終わりません。
その会社で働く人の生活、取引先、地域の雇用、長い時間をかけて培われてきた技術や信頼。
そして、日本の次の産業を担うことが期待される成長企業の勢い。
つまずく会社が短期間に増え、日本の土台と未来を支えるこうした価値が失われることは、日本社会にとって大きな損失になると思うのです。
失敗には、法則がある
経営幹部の登用にまつわる失敗は、これまでほとんど語られてきませんでした。
送り出した側も、迎えた側も、去った本人も、口を閉ざしがちです。その経験から学ぶ機会がないまま、 同じ失敗が、別の会社で何度も繰り返されてきました。
2013年の私は、何も知らず、何も備えることができませんでした。
けれど今は、実務と研究を重ねてきたことで、失敗が起きる場所には共通点があることが分かっています。
何を期待されているのかが、本人と周囲でずれている。誰がどこまで決めるのかが、曖昧なまま動き出している。その会社が大切にしてきたものが、新しいリーダーに伝わっていない。
つまずきは、偶然ではなく、同じところで起きているのです。
経営の転換を、飛躍に変える
事業承継もM&Aも、企業が新しい価値を生み出すための手段の一つです。
これまで培ってきた力と、新しく加わる力が重なれば、これまでできなかった変革が可能になります。
けれど、経営と現場の間に摩擦が生まれると、組織の力はすれ違いや不安の解消に費やされ、前に進むためには使われません。
失敗の法則を知り、起こりうるつまずきを先回りして防ぐことができれば、その摩擦は減らせます。そして、組織が持つ力を、まっすぐ変革に注ぐことができる。
私たちが失敗を研究するのは、そのためです。
経営の転換期に下す判断は、やり直しがききません。
だからこそ私たちは、これまでの実務と研究から得た知見を、PRIME SHIFTという形にまとめました。
人を選ぶ判断から、新しいリーダーが組織の中で立ち上がり、チームとして成果を出すまで。起こりうるつまずきを予測し、必要な備えを考える。
言葉にされない期待や、その組織が大切にしてきたものまで含めて、経営の転換を設計する。それが、私たちの考える、日本企業のためのエグゼクティブ・オンボーディングです。
あのとき、私が送り出した社長を守れなかったこと。
その悔しさを、これから経営を担う人たちの挑戦を守る力に変えたい。
一社でも多くの企業が、経営の転換を、新しい価値を生み出す飛躍に変えられるように。
私たちは「失敗の研究」を発信し続けます。
出典・参考資料
※1 エムクラス・九州大学ビジネス・スクール 碇研究室「経営幹部登用とエグゼクティブ・オンボーディングの実態調査」(2026年3月実施、128社対象、2026年9月公表)。該当する出来事を1名以上経験した企業の割合
※2 東京商工リサーチ「2025年『社長の年齢』動向調査」(2025年12月時点)
※3 令和8年度税制改正(極めて高い水準の所得に対する負担の適正化の見直し、特例承継計画の提出期限の延長)、中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」
※4 日本取引所グループ「上場維持基準(グロース市場)」
※制度に関する記述は2026年10月時点
