【特別対談企画 –チームの力を最大化するリーダーシップ –】 外部招聘された経営者が早期に成果を出すための「エグゼクティブ・オンボーディング」とは

2023.09.07

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外部招聘された経営者が早期に成果を出すための「エグゼクティブ・オンボーディング」をより多くの日本企業に知っていただきたい

「いかに優秀なエグゼクティブでも、新天地で本来の力を発揮するには時間がかかります」―村上

村上しほり(以下、村上):鴨居さん、本日は貴重なお時間をいただきまして、本当にありがとうございます。

鴨居達哉(以下、鴨居):こちらこそ、よろしくお願いします。

村上:鴨居さんの弊社顧問就任の経緯に触れるにあたり、まずエムクラスの事業紹介から始めさせてください。
エムクラスは「エグゼクティブ・オンボーディング」を専門とする、日本で初めての会社です。エグゼクティブ・オンボーディングとは、新社長や新取締役など新しく組織に参画するエグゼクティブが、速やかに成果をあげられるよう支援する取り組みのこと。当社は独自の「ウェルカム100日プラン」により、新しいエグゼクティブが約3カ月でチームを軌道に乗せるためのサポートを行っています。
そして鴨居さんは、ご自身がいくつかの会社の経営を担い、その際、外部からアポイントされた社長としてのオンボーディングの経験当事者でもあられます。そんな鴨居さんのお力を弊社の事業にお貸しいただきたく、顧問就任をお願いした次第です。

鴨居:ご紹介ありがとうございます。私のキャリアには大きく2つの軸があります。1つは、事業会社での仕事か、コンサルティング会社の仕事か。もう1つは、日本本社の仕事か、米国本社の仕事か、です。そのなかで過去に2度、内部昇格ではなく外部からアポイントされた社長として着任した経験があります。

村上:鴨居さんと初めてお会いしたのは約10年前、日本IBMの常務でいらした頃です。私はまだ、エグゼクティブサーチの仕事を始めて3カ月目。実績も経験も豊富な鴨居さんを前に、非常に緊張したことを覚えています。

鴨居:もう10年になりますか。当時から、自分が転職するしないにかかわらず、人材マーケットの状況を知るため、エグゼクティブサーチのエージェントに定期的にお会いしていました。村上さんもその一人です。

村上:以来、情報交換などのお付き合いが続き、鴨居さんという経営者がどんな視座でお仕事をされているのか、食らいつくようにして学ばせていただきました。「オンボーディングを事業にしようと思います」とご相談したのは、3年ほど前だったと思います。

鴨居:村上さんからその話を聞いてまず、「これはタフなチャレンジになりそうだ」と思いました。日本のオンボーディング支援というと、エグゼクティブサーチ企業が採用決定後の“サービス”の一環として手がけることが一般的でしたから。

村上:確かにそうです。企業側にとって、特に「エグゼクティブ・オンボーディング」は、馴染みが薄い概念かもしれません。オンボーディングという言葉が新入社員の採用後の定着支援などで使われるようになりましたが、企業の要職ポジションに対して活用されるケースは少ないのが現状です。外資系企業を除いて、国内企業にはまだまだ浸透していない概念といえます。
しかし、私はエグゼクティブサーチの時代から「なぜ実績のある優秀な人材が、新しく参画した組織で結果を残せずに辞めてしまうのか」という疑問と課題感を持っていたんです。いかに優秀なエグゼクティブといえども、新天地に着任し、本来の力を発揮できるようになるまでには時間がかかります。
また、「新しいリーダーの40%は最初の18カ月でその役割に失敗する」「企業買収後、従業員の離職率は重要な幹部職で最も高くなる、最も維持したい従業員から辞めていく」というデータもあります。着任後のエグゼクティブの苦悩は想像以上です。思うような成果をあげられず、去っていくエグゼクティブをたくさん見てきました。
一方で、鴨居さんをはじめとした、成功する経営者には共通点があるのではないか――。そこを押さえたプログラムがあれば、エグゼクティブ・オンボーディングの成功率は上がると確信していました。

鴨居:日本企業と欧米系企業では、人材マネジメントの基本的なアプローチが違います。欧米系の企業では「優秀な人材ほど市場価値が高く、会社を去るリスクが高い」と考える。実際に大手の企業であってもエクゼクティブレベルでの人材の流動性は日本より高く、最近では欧米系のみならず、アジアの企業においてもこの傾向は顕著です。海外でエグゼクティブ・オンボーディングの意識が浸透しているのもそのためででしょう。
日本企業は「優秀な人材は会社へのロイヤリティも高く、会社がコミュニティのように機能し、新卒での採用後、定年まで頑張ってくれる」という立ち位置を基に人材マネジメントモデルを考えてきました。しかし、働く人たちの仕事や自分のキャリアに対する意識は大きく変わってきています。シニア層においても人材の流動性は高まっていますし、企業側も新たな成長ステージに向け、従来、自社内には少ない多様なバックグラウンドを持つ優秀なエグゼクティブをスカウト採用する動きが増えてきています。そして、村上さんの指摘どおり、そうしたそれぞれに専門性を持った経験豊富なシニア層、エクゼクティブが新たな環境にうまく定着できず、期待される成果を創出できていないケースも少なくない。そこを支援するオンボーディングは社内において非常に重要なテーマになっていますし、専門性を持って外部から支援するエグゼクティブ・オンボーディングサービスへの期待値がこれから増していくと思います。
若くしてエグゼクティブサーチの仕事に飛び込んだ村上さんの勇気とエネルギー、そしてエムクラスを設立して頑張っている姿勢を見て、「応援したい」と考えたのです。

村上:ありがとうございます!

「組織の“いいところ”を褒めることから、オンボーディングは始まります」ー鴨居

村上:鴨居さんが外部から招聘された経営者として新しい組織に着任した際に、どんなご苦労をされたのか、お聞かせください。

鴨居:先程申し上げたとおり、私は過去に2度、外部から新社長としてアポイントされたことがありますが、まさに苦労の連続でした。「悪化した業績を立て直すために、社外から新社長がやってきた」という経緯なら話がわかりやすいのですが、2社とも業績は好調。社員たちにしてみれば、「なぜ新社長が来たのか」納得しにくかったと思います。
当然、反発もありました。朝出社したら『だからあなたは嫌われる』という本がデスクに置かれていたこともありますし、会社を辞めていく人もいました。無理もないと思います。社外からやってきた新社長のせいで、ポストを外されるかもしれない、今の仕事を失うかもしれない、大きく経営方針が変わっていくかも、そんな危機感が組織に広がっていくリスクもありました。

村上:その危機感を取り除くには、経営陣、社員としっかりコミュニケーションするしかありませんよね。

鴨居:村上さんがオンボーディングの専門会社を設立すると聞いて、最初に「『褒める』ことが大事ですよ」とアドバイスしたことを覚えているでしょうか。新社長として着任したからには、何かを変えなければならない。けれども組織には、これまで続いてきて、これからも続いていくべき、その企業の良き文化、あるいは、社員の心に内在している「DNA」ともいうべきものがあります。それをよく理解し、見極めて、これからも維持発展させるべきものとして、尊重することから始めるべきなのです。まず、相互の信頼関係を構築することが重要で、それがないと、社員がバッドニュースを持ってきづらくなると考えました。
そのうえで、これから強化していくべきこと、新たに始めること、あるいはやめることなどについて、自分なりの仮説を用意し、リーダー陣や社員たちとコミュニケーションしながら検証していく。加えて大切なのは、以上のコミュニケーションを着任後、一定の期間をかけ行い、新社長のビジョンを公式発表する前にきちんと共感しあえる関係を作ることです。
こうして社員の声に耳を傾け、率直な意見を言い合える環境を作り、同時に自分の仮説もぶつけていくことで、信頼関係を構築するというステップを経ずに、自分だけの仮説でビジョンや戦略を発表しても、それを受け入れる土壌はできていないと考えるべきです。私の感覚では、着任の発表後、実際の着任までの期間を、こうしたリーダー陣や社員の人たちとの会話を通じ、相互理解を深める時間に使えるのが理想だと思います。着任前にそれが出来なければ、着任後の2か月が、重要な期間になります。このプロセスがあるからこそ、ビジョンの実行計画を全社目線で、社員とともにつくることができる。 その後の実行計画を「My plan」ではなく、「Our Plan」として進めることができる、とも言えますね。

「エムクラスは『3カ月で自分のチームをつくる』お手伝いをします」ー村上

鴨居:私の場合、自分のオンボーディングを、着任先社内のバックアップを受けつつも、いわば無手勝流で乗り切ってきたわけですが、エムクラスならどんな支援ができたと考えますか。

村上:1つは、「期待と期限と資源」のすり合わせです。期待というのは「何をもって成功とするのか」ですね。「業績を建て直す」ことがミッションであればわかりやすいのですが、業績が好調の場合はそこが曖昧です。ともすると「業績は伸びたけど、期待以下だったから失敗」と評価されます。
当社のオンボーディングサービスにおいては、初期段階で「何がどうなったら成功といえるのか」を、そのエグゼクティブをアサインした責任者(ステークホルダー)としっかり共通認識を持つことを大切にしています。
しかし、より見落とされがちなのは、期限と資源です。期限は「いつまでにやるか」。新エグゼクティブは「1年で成果を出せた」と満足しているのに、「半年で成果を出してほしい」と期待していた方には物足りなかった、ということが起こりがちです。期待と期限は、必ずセットですり合わせる必要があります。
そして資源とは、予算と権限のことです。人を新たに雇えるのか雇えないのか、人材をリプレイスしていいのか、いけないのか、自分で意思決定できるのはどこまでで、共有しながら決めなければならないのはどんな事か。これらをDAY1(着任日)までにエムクラスが確認し、新エグゼクティブとエグゼクティブをアサインした責任者(ステークホルダー)との擦り合わせに立ち合います。もともと、こうした価値観の共有、具体的なできることできない事の意識合わせ、想定される時間軸などは、そのエクゼクティブを採用する際に、その採用期間でしっかり、当事者間で合意していくことが必要ではありますが、まず、外部の視点も含め、私たちが参画して、その再確認をしっかり行います。その再確認をしっかり行います。

鴨居:なるほど、「期待と期限と資源」のすり合わせは、確かに重要なポイントだと思います。

村上:また、社員とのコミュニケーションプランも、DAY1までに用意します。エグゼクティブ・オンボーディングを成功させるには、約3カ月で「自分のチーム」をつくることが重要ですが、前任者が育てた組織や成功パターンもあるなかで、社員たちの心はそう簡単に変わりません。取締役会に上がってこない、ドロドロとした人間のリアルな感情も、オンボーディングにはつきものです。
そこで当社の「ウェルカム100日プラン」では、事前に組織診断(アセスメント)を行い、その組織がどんな価値観、どんな強み、どんな信念、どんな意思決定プロセスを持つかをなど、言語化されていない情報の可視化を行います。
例えば、会議が「活発な議論をする場」なのか、「合意の場」であり前後の調整が必要なのかも、組織によってまちまちです。また、新エグゼクティブの直属の部下や、新エグゼクティブが成果をあげるためのキーパーソンとも1on1のヒアリングを行い、どうしたらDAY1から社員との信頼関係を構築し、チームビルディングに向けて動き出せるのかを、着任前にご提案します。その後、着任から約1ヶ月後のタイミングでチームビルディングワークショップを実施しています。

「多様性を成果につなげるには、インクルージョンこそが重要」―鴨居

鴨居:今後の事業展開をどう描いているか、教えてください。

村上:現在は、複数のPEファンドからの依頼で、投資先企業へサービスを提供しています。PEファンドの企業買収により株主が変わり、社長や取締役が外から新たに参画するタイミングで一緒に入り「ウェルカム100日プラン」を提供します。
最近は「100日プラン」の後のサービスをご要望いただく機会も増えつつあります。例えば、目標を達成するためのビジネスコーチングや、組織診断の結果をもとにした、採用戦略のコンサルティングなどです。
今後は、主に2つの領域での成功事例を増やしていきたいと考えています。

1つは、女性エグゼクティブとその候補の支援です。クライアントニーズも高く、今まさに注力しているところです。

もう1つは、人的資本のアセスメントについてです。従業員を企業が重要資産とみなし、その価値を最大限に引き出す経営手法である「人的資本経営」が注目されています。そして、上場や売却のフェーズにある当社のクライアントにとって、人的資本の最大化は企業価値向上に直結するもの。長期的でサステナブルな企業成長に向けて重要な事です。まずは現状を可視化し、ありたい姿に向けて、どのようなストーリーを以て組み立てて行くのかサポートしたいと考えています。

鴨居:人的資本経営は、オンボーディングにおいても重要な論点ですね。これまで「予期せぬ環境変化が起こる」「変化のサイクルが短くなっている」とさんざん言われながら、日本企業はなかなか変革に踏み切れなかった。理由は、過去の成功体験に根差した仕組みを抜本的に壊すことへの躊躇や、「今はまだ大丈夫」という意識などでしょう。しかし、新型コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻など、地球規模での激変が社会、経済活動に非常に広く、かつ長期にわたり影響を与えるという事実を前にして、トップマネジメントが持っていた「変わらなければ生存競争に勝ち残れない」という危機感がミドルマネジメントまで含め、醸成されるに至りました。
抜本的に構造改革を進める、という取り組みの中でも人的資本の最大化は重要なテーマです。これまで日本の大企業の多くは、新卒入社から30年間、同じ環境で同じ経験を積んだ社員たちの集まりでした。ゆえに人材マネジメントのあり方も、そのような組織に最適化されていました。これでは、いくら議論を重ねても抜本的な変化は望めません。
このような環境下で人的資本を最大化するには「多様な人材を集める」ことが有効ですが、外部からやってきた多様な人材が生き生きと活躍するためには、従来からの社員と融合し、相互の持つ能力を掛け算で成果につなげる環境を作ることが必要です。
これこそが、オンボーディングが求められている理由だと思います。エムクラスのサービスは、多様性を担う人材のインクルージョンに大いに影響するはず。多様な人材のいる組織を作る、というところまでは、かなりの努力を要しますが、できなくはありません。しかし、それを成果につなげるためには、インクルージョンが非常に重要なのです。

村上:オンボーディングの重要性については、少しずつ認識されてきたように思います。これまでオンボーディングは新たな役割にアポイントされた、あるいは外部から採用されたエグゼクティブ自身が自ら順応していくもの、というような捉えられ方もあって、会社全体としてのサポートをどう提供するかの意識は希薄でした。採用が決まれば終わり、あとは着任したエグゼクティブの人間力で乗り越えられる、高いお金をかけて実績のある人材を採用したのだから大丈夫、という声もありました。
しかし、今後は会社としてオンボーディングに投資をするべき時代になると思っています。特に、上場や売却など短期でゴール設定されるフェーズにある企業にとって、新エグゼクティブのオンボーディングは待ったなしの切実な問題といえます。


鴨居:エムクラスの顧問としての私の役割は、自分の経験をエグゼクティブと共有し、「自分ごと」として一緒に考えること、これに尽きると思っています。オンボーディングのプロセスは、会社が置かれている状況、エグゼクティブ自身の価値観などによって千差万別。「こうしたらよい」とアドバイスをするつもりはまったくありません。しかし、悩めるエグゼクティブに、私の経験や知見を有効活用してもらえると嬉しいですね。外ではあまり言えない苦労も、いろいろとしてきましたから(笑)。

村上:エグゼクティブ・オンボーディングの生々しい部分をよくご存知の鴨居さんだからこそのご支援に、期待しています。
その人の持つ強みや信念こそが、強い力になると私は信じていています。
新しいエグゼクティブとその組織が早期に成果を出せるよう、変わろうとする「その時」をエムクラスがサポートしてまいります。

鴨居:これからの日本にとって、とても意義のある仕事です。ともに頑張りましょう。